シネマ酒オン・ザ・ロック「ストレンジャー」


 タトゥーを顔に彫ったり、指が一本なくなったりしたバンコクの狂乱の一夜から2年。幸せな家庭生活を送るフィル、スチュ、ダグの妻帯者3人に対して、独身ニートのまんま40代を迎えてしまったアランはいよいよ奇行に拍車がかかっていた。遂に大事件を引き起こしてしまった彼は治療施設への強制入院が決定。3人はアリゾナまでアランを送り届ける旅に出た。

 ところが道中、一行は謎の集団の襲撃を受けてしまう。一味の正体は、4年前にラスベガスでアランにヤクを売ったドラッグディーラー”ブラック・ダグ”を含むギャングたちだった。親分のマーシャルはかつて2000万ドル相当の金塊をミスター・チャウに横取りされた過去を持っており、チャウとメル友関係のアランに目をつけたのだ。「3日以内にチャウを俺の前に連れてこい! さもないとコイツをブッ殺す!」案の定、人質にされるのはダグ。果たして3人は、チャウを3日以内に捕まえてダグの命を救えるのだろうか?

   そんな『ハングオーバー!!! 最後の反省会』は、男たちの独身最後の夜の大冒険を描いて世界中でメガヒットしたコメディ・シリーズ『ハングオーバー!』の完結編である。前2作は、主人公たちが二日酔いで失った前日の記憶を辿ることでストーリーが転がっていったけど、本作では一転、シラフのまんま決死の行動を繰り広げる。このためサスペンス色がぐっと濃くなり、ハードボイルド的とすら言える映画に仕上がっている。

  それに伴ってキャラクターの描かれる比重にも変化が生じている。過去2作のキーパーソンはスチュだったけど、本作のキーパーソンはアラン。病状の悪化でマトモな行動が何ひとつ出来ず、フィルとスチュをイライラさせているだけに見えるけど、彼が恋に落ちることによってシリーズは大団円へと導かれる。相手役のキャシーを演じているのは”女版『ハングオーバー!』”と評された『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』で、アラン同様の飛び道具キャラを演じてブレイクしたコメディエンヌ、メリッサ・マッカーシー。このキャスティングだけでも最高だけど、2人が恋に落ちるきっかけがビリー・ジョエルなのだからもう何も言うことはない。
  70年代から80年代にかけてあまりにも売れすぎたために、未だに再評価されていないこのスーパースターは既に第二作でアランのフェイバリット・アーティストであることが仄めかされ(彼の部屋には80年のアルバム『グラス・ハウス』のジャケ写のポスターが貼ってある!)、劇中では「ザ・ダウンイースター“アレクサ”」やスカ・レンジャーズによる「素顔のままで」のカバーが流れるばかりか、スチュが弾き語りで「アレンタウン」の替え歌「アランタウン」まで披露していた。

  本作でも序盤のシーンで「マイ・ライフ」をヘッドフォンで爆音で聴くなど、アランのビリー愛は健在だ。だからこそ彼は、偶然立ち寄った質屋で店番を務めるキャシーがビリー・ジョエルのTシャツを着ているのを確認するなり、彼女に恋してしまうのである。その際にタイミング良くBGMとして流れるのが、ビリーの「ストレンジャー」だ。

  「ぼくらは皆恋に落ちる/でもたくさんの秘密を共有するっていうのにその危険を無視する/君は自分の中の異邦人を恋人に見せたことがないのかい? 」

 言わずもがなだけど、アランの中にはそんな大層な奴は存在しない。それに客観的に見れば、アランとキャシーは背が低い中年の男女にしかすぎず“運命の恋人”というイメージから百万光年隔たっている。でもビリーの歌声に勇気づけられてその気になったアランは、永遠に続くと思われた狂乱の日々から抜け出すきっかけを掴むのだ。


『ハングオーバー!!! 最後の反省会』予告編


Billy Joel - Stranger