シネマ酒オン・ザ・ロック「ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート」


 禁酒法真っただ中の1931年のバージニア州山間部。全米で最も密造酒ビジネスがこの地に、”不死身の男たち”と呼ばれる荒くれ者のボンデュラント兄弟がいた。そんな彼らに新任取締官が法外な賄賂を要求したことをきっかけに、両者の間で血で血を洗う抗争が始まって・・・。  

 『欲望のバージニア』は、シャイア・ラブーフとトム・ハーディを中心に、ジェシカ・チャスティン、ミア・ワシコウスカ、ゲイリー・オールドマン、ガイ・ピアース、そしてデイン・デハーンといった新旧スター俳優が結集した”辺境版『アンタッチャブル』”な実録クライム・ムービーだ。これほどの大作、きっと名のある脚本家の手によるものに違いないと思っていたら、クレジットを観てビックリ。何とあの暗黒大王ニック・ケイヴなのである。

  以前から『亡霊の檻』(88年)や『プロボジションー血の誓約ー』(05年)といったオーストラリア映画で脚本や音楽を手がけていたケイヴだったが、これらの作品を監督していた親友ジョン・ヒルコートが『ザ・ロード』(09年)でハリウッドに進出を果たし、またケイヴ自身も音楽を担当した『ジェシー・ジェームズの暗殺』(07年)が評価されたことで、2人がハリウッドでタッグで作品を作る土壌が築かれていたのである。もちろん本作でもケイヴは脚本だけでなく音楽も担当している。

  そんな本作の音楽面の大きな特徴は、アレンジがすべてブルーグラス風なことだ。ブルーグラスがバージニア周辺の伝承音楽をベースにしていること、30年代に録音が始まったこと、酒の密造業者=ムーンシャイナーが歌詞に頻出することを考えると、この選択は不可避だったと言えるだろう。

 その代わりに劇中曲の半数を占めるカバー曲には、ケイヴの個人的趣味が出まくっている。というのも、ブルーグラスの定番曲は1曲たりとも取り上げられていないのだ。代わりにケイヴがカバーしたのはリンク・レイ、ルー・リードが率いていたヴェルヴェット・アンダーグラウンド、そしてキャプテン・ビーフハートといったパンク・ロックのゴッドファーザーたちのナンバー。ケイヴは、禁酒法時代と現在起きている麻薬戦争をリンクさせるために意図的にこうした選曲を行ったという。彼は密造酒の製造現場で渦巻いていたバイオレンスをパンクによって表現したのだ。

 そんなパンク・ナンバーを歌うヴォーカリストとして、スクリーミング・トゥリーズ〜クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのマーク・ラネガンはまだしも、エミルー・ハリスやウィリー・ネルソン、そしてラルフ・スタンレーといったガチのカントリーシンガーを招いているのが面白い。中でも今年86歳になるスタンレーは、禁酒法時代の27年にバージニア州に生まれたブルーグラス界の長老的存在。そんなレジェンドに、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート」を歌わせているのだから最高だ。

 「白い光!/白い光が俺の頭を狂わせる/白い光!/白い光が俺の眼を見えなくしているんだって!/白い光が俺の脳みそを掻き回す/白い光!/おお、どうかお慈悲を〜」  

 原曲は勿論ドラッグによる幻覚を歌ったものだけど、ブルーグラス風の演奏にスタンレー爺さんの声が乗るとアルコールについて歌っているようにしか聴こえない。しかもオリジナル・バージョンには感じられなかったユーモアまで感じさせているのが面白い。イイ曲はどんなアレンジをされても、それに耐える力を持っている。それどころか時には全く異なった魅力すら放つものなのだ。そんな曲を作った不世出のソングライター、ルー・リードに敬礼。そして彼の死を偲びたい。


『欲望のバージニア』予告編



The Velvet Underground - White Light/White Heat



Ralph Stanley - White Light/White Heat