シネマ酒オン・ザ・ロック「ベイビー・ワン・モア・タイム」


 生きているときっと面白いことがあるというけれど、まさかハーモニー・コリンの監督作までホメる日が来ようとは・・・。 

    ハーモニー・コリンが1995年に弱冠22歳で映画界に登場したのは『KIDS/キッズ』の脚本家としてだった。セックスとドラッグまみれの少年少女たちを、登場人物のひとりであるかのようなリアルさと観察者の冷淡さが入り交じった視点で捉えたこの作品は高く評価され、コリンはカルトヒーローになった。その勢いを借りて1997年には『ガンモ』で監督デビューを果たしている。

   しかし公開当時と比べて『ガンモ』の評価は随分と落ちてしまった感がある。無理もない、『ガンモ』には観察者的な視点が欠けていたのだから。『KIDS/キッズ』におけるそうした視点は写真家上がりの監督ラリー・クラークが担っていたものであり、コリンは登場人物側の人間でしかなかった。彼が徐々に過去の人になっていったのは、だから仕方がないことでもあった。
 
    そんなコリンが、今になってちゃんとした新作を撮れたのも驚きだったけど、その作品『スプリング・ブレイカーズ』が良いのにはもっと驚いた。冒頭の閑散とした寮の廊下でヒロインたちがはしゃぐシーンひとつ取っても、これまでの作品とは違うことが分る。そこには彼女たちと一緒にはしゃいでいるような当事者的リアルさと、彼女たちをニヤニヤ眺める観察者的な視点が見事に共存しているのだ。単にオッサンになっただけかもしれないけど結果オーライ、コリンは『KIDS/キッズ』におけるラリー・クラークの視点を身につけたのである。

    しかも本作には飛び切りのサプライズがある。つい最近までディズニー・チャンネルのトゥイーン向け番組に出演していた現役アイドル、セレーナ・ゴメスとヴァネッサ・ハジェンズが出演しているのだ。彼女らもアイドルからの脱皮を模索していたとはいえ、春休みに遊ぶ金欲しさに強盗を行い、マイアミに繰り出してキワどいビキニで弾けまくる姿はそれだけでスゴいインパクト。EDM界の旗手スクレリックスの手によるアゲアゲだけど何処か切ないダンスビートが鳴り響く海辺のパーティ・シーンは『プロジェクトX』と並ぶテン年代のパーティ描写として記憶されていくことだろう。

  そんなパーティで浮かれ騒いだあと、泥酔した彼女たちはコンビニの駐車場でふらつきながらブリトニー・スピアーズの「ベイビー・ワン・モア・タイム」を合唱する。

 「さみしくて死んじゃいそう/白状しなきゃ/あなたがそばにいないと気が狂いそう/ベイビーもう一度、愛して」

 コリンが、セレーナやヴァネッサに所謂名曲ではなく、ちょい前の陳腐なポップソングを歌わせたのは、彼女たちの愚かしさを表現したかったからだろう。だがコリンはちょっとした計算ミスをしてしまったようだ。ブリトニーもまたディズニー・チャンネル出身のアイドルである。セレーナとヴァネッサがブリトニーの曲を歌うとき、ディズニー・アイドルの歴史はひとつに繋がって光り輝く。その光の輪はコリンの思惑を超えてコンビニの駐車場を華やいだステージへと変えてしまうのだ。

  映画はこの後、ジェームズ・フランコ演じるラッパー兼ギャング”エイリアン”の登場によって、犯罪劇へと姿を変えるのだが、コリンのヒップホップやストリート・ギャングに関する知識がボンヤリしていることもあって、かなりグダグダな展開になってしまう。それでもブールサイドに置かれた白いピアノでフランコとギャルたちが「エブリタイム」というナンバーを合唱するシーンは妙に感動的で映画を救う。その曲のオリジナル歌手はというと・・・やはりブリトニー・スピアーズ! つまりハーモニー・コリンは映画を救ったブリトニーの家の方向に足を向けて寝てはいけないのである。


『スプリング・ブレイカーズ』予告編



ブリトニー・スピアーズ「ベイビー・ワン・モア・タイム」